大雪山レーベル
INTERVIEW ⼤雪⼭レーベル
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物語みたいな過ごし方ができる上川町の魅力 物語みたいな過ごし方ができる上川町の魅力

村上萌さんが主宰している「NEXTWEEKEND(ネクストウィークエンド、以下NW)」は、“季節の楽しみと小さな工夫で、理想の生活を叶える”がコンセプトのコミュニティメディア。2018年の1通のメールから、NWと上川町のコラボレーションがスタートし、冊子制作やイベントで町を盛り上げてきました。2022年3月には新しいふるさと納税の形としてワークショップイベントを開催。村上萌さんから見た上川町の魅力とは? これまでの取り組みや今後の展望について、上川町役場の三谷航平さんとともに、お話をうかがいました。 インタビュー、冊子、ワークショップの写真:樋口勇一郎/文:矢澤純子

はじまりは
1通のメールから

村上萌さんは10年ほど前に起業し、ライフスタイルプロデューサーとして、さまざまな企業や自治体の企画に携わっていました。今日でもなく、3年後でもなく、「次の週末」に叶えたいことがあれば、毎日がきっと楽しくなる。この村上さんの考え方には次第にファンがつき、2012年にメディアブランド「NEXTWEEKEND(以下NW)」を立ち上げました。

NWと上川町の出会いは、1通のメールから。2018年2月、村上さんの会社ホームページのお問い合わせ窓口に、上川町役場の小知井さん(三谷さんの上司)から突然こんなメールが届いたそうです。「上川町は人口4000人弱の小さな田舎町ですが、定住人口も減り、観光客が減ってきています。都市部に住む方々に、旅と暮らしの中間にあるような新しいスタイルを提案することができないかと思っています」。

上川町役場の三谷航平さんは、「その頃、上川町は観光と移住という2つの課題に同じ熱量で取り組んでくれる人を求めていて、小知井がインターネットでいろいろ探していたんです。それで見つけ出したのがNEXTWEEKENDさんでした」と当時を振り返ります。

「当時、自治体の仕事はそんなにしていなかったし、遠く離れた小さな会社に連絡をくれたことに驚きましたが、すぐにお会いする約束をしました。小知井さんは、私たちが作っていた雑誌を抱えて北海道から一人でオフィスに来てくれました。多くは語らないけれど、内に秘めた熱い思いを持っていて、ぜひ協力したいと思いました」と村上さん。

こうしてはじまったコラボレーション。出会いから4年が経った今でも良い関係が続いており、村上さんは上川町が抱える課題に自分ごととして向き合っています。


(上)上川町との偶然の出会いを今も鮮明に覚えているという、村上萌さん。1通の真摯なメールを見た時点で、すでに心は決めていたそう。

(下)“季節の楽しみと小さな工夫で、理想の生活を叶える”をコンセプトに、立ち上げ以来、多くの読者の支持を得ているWEBマガジン、「NEXTWEEKEND」。

村上萌

上川町との偶然の出会いを今も鮮明に覚えているという、村上萌さん。1通の真摯なメールを見た時点で、すでに心は決めていたそう。

NEXTWEEKEND

“季節の楽しみと小さな工夫で、理想の生活を叶える”をコンセプトに、立ち上げ以来、多くの読者の支持を得ているWEBマガジン、「NEXTWEEKEND」。

「応援したくなる町」を
⽬指して、
ファンを増やす

かつてご主人の仕事の関係で、北海道に住んでいたこともあった村上さんですが、上川町のことはメールをもらうまで詳しくは知らなかったそうです。上川町の印象について村上さんは、「小知井さんからは何もない町だと聞いていましたが、実際に行ってみたら、全部あるじゃんって思いました。雄大な自然、温泉街、おいしいレストラン。北海道と聞いてイメージすることを上川町でほとんど体験できるのでは」と話します。

NWが最初に手がけたのは、上川町をもっと知ってもらうための冊子制作でした。上川町役場からは「ただ観光スポットを紹介するパンフレットではなく、ストーリーや裏話を入れて欲しい」とのリクエスト。村上さんは「物語の中みたいな週末が叶う町」というキャッチフレーズをつけ、独自の切り口で企画を考えていきました。「他の地域に比べると観光スポットの数は少ないですが、たとえば“ハイジみたいなピクニックがしたい”と思ったら、素敵な景色やおいしいパン屋さんを紹介できる。スポット軸ではなく、シーン軸で考えたら、上川町は魅力的なコンテンツの宝庫でした」と村上さん。

さらに、普通の冊子作りと大きく違うのは、編集部員を全国から募集したこと。

「私たちだけできれいな冊子を作るのは簡単です。ただ長期的に考えると一番大切なのは、上川町のファンを作ること。だから冊子作りの段階からいろいろな人を巻き込んで、コミュニティを作ろうと思ったんです」と村上さん。NWを一緒に作っている“Weekender編集部”が全国に300人ほどいて、そこで上川町を盛り上げてくれる仲間を募集。すると全国から驚くほどたくさんの応募が集まり、北海道はもちろん、関西や関東などから6名のメンバーが選ばれました。全員で上川町へ取材ツアーに行き、メンバーそれぞれが自分の言葉で魅力を伝えることで、他にはない熱のある冊子が完成しました。そのときのメンバーは今でも繋がっていて、上川町を第二の故郷のように気にかけているそう。一度関わったら、「この町を応援したい」と思わずファンになってしまう。上川町には特別な魅力があるようです。


Weekender編集部から有志を募って生まれた上川町の冊子。新しい視点で町の魅力を捉えた誌面は人気で、全国から注目されている。

上川町の冊子 上川町の冊子

Weekender編集部から有志を募って生まれた上川町の冊子。新しい視点で町の魅力を捉えた誌面は人気で、全国から注目されている。

上川町は感度の高い人、
熱い思いの仲間が集まる
“パワースポット”

温泉街や収穫祭のイベント、移住に興味を持ってもらうためのオンライントークライブなど、NWは上川町でさまざまなイベントを企画してきました。村上さんは、上川町役場には他の自治体にはない風通しの良さがあると言います。「上川町はとにかく決定のスピードが早い。私がやりとりをしているのは小知井さん、三谷さん、松原さん(三谷さんの部下)の3人だけだし、いい意味で自治体っぽくないんです。3人はまるで、中3、中2、中1みたいな感じで(笑)、役割がきちんとあってバランスがいいんですよね」と絶賛。

一方で、上川町役場も村上さんに圧倒的な信頼を寄せています。「村上さんをはじめNEXTWEEKENDの皆さんは、生の声で丁寧に町の魅力を届けてくれるので、イベントの参加者に伝わりやすい。上川町に遊びに来てくれる人やお試し体験住宅の申し込みが増えたりと、毎回イベント後の反応がとても良いんです」と三谷さんは嬉しそうに話します。


2018年からタッグを組み、上川町を盛り上げる三谷さんと村上さん。

三⾕航平

2018年からタッグを組み、上川町を盛り上げる三谷さんと村上さん。

イベントはお客さんだけでなく、地元の人にもいい影響を与えているそう。たとえば、層雲峡温泉のイベント。層雲峡温泉には北海道の温泉には珍しく、飲食店や土産物店が並ぶ温泉街がありますが、うまく活用できていませんでした。そこで村上さんが「層雲峡の温泉街ピクニック」を企画。お祭りの屋台やイルミネーションなどで温泉街を演出し、写真を撮りたくなるようなおしゃれなスポットに変身させました。

「温泉街の人たちは、これまでなかなかひとつになれなかったのですが、村上さんに入ってもらうことで同じ方向を向くことができました」と三谷さん。しかも、イベントを1回やって終わりではなく、次年度は地元の人たちが自分で企画を考えるようになり、意識が変わるきっかけになったそうです。

「いくら私たちが働きかけても、その先に可能性を感じてくれるかどうかは、町次第です。上川町の人たちは、ちゃんと日常に疑問を持っていて、変わりたいという熱があるから、新しいものが生まれるんだと思います」と村上さんは言います。変化を恐れず、柔軟に外部の人のアイディアを受け入れる。町を盛り上げようと熱意のある人が多いのは、上川町の大きな魅力です。常に面白いことが起こっていて、感度の高い人、熱い思いの仲間がどんどん集まってくる、パワースポットのような町になっています。


(上)2019年6月に開催された層雲峡の温泉街ピクニックのポスター。

(下)大雪山国立公園に位置し、大雪山黒岳山麓にある層雲峡の温泉街。

層雲峡の温泉街ピクニック

2019年6月に開催された層雲峡の温泉街ピクニックのポスター。

層雲峡の温泉街

大雪山国立公園に位置し、大雪山黒岳山麓にある層雲峡の温泉街。

温泉街

温泉街の人とともに自ら脚立に上って設営作業をする村上さん。その思いは、温泉街や町役場の皆さんと同じ。上川町の新しい変化を生み出している。

町と深く関わる、
新しい
ふるさと納税の形

2022年3月、上川町の特産品ブランド「大雪山レーベル」と、NWのコラボレーション企画として、ワークショップイベントが開催されました。ワークショップの内容は、上川町の鹿のツノとドライになってもそのまま楽しめる花材を組み合わせて「ワイルドスワッグ」を作るというもの。申し込んだ人には、事前に材料とテキストが送付され、当日、オンラインで作り方を教わりながら、スワッグ作りを楽しみました。

「大雪山レーベル」は、ふるさと納税の対象となる商品で、肉や魚介、野菜や果物、お酒など飲食物がメイン。全国的にも「ふるさと納税=もの」というイメージがどうしても強いですが、NWのノウハウを生かすにはどうしたらいいか考えたとき、ワークショップという“体験”を売るアイディアが出てきたそう。

「層雲峡温泉のイベントのとき、温泉街で鹿のツノがお土産物として販売されているのを見かけていたんです。普通は買わないじゃないですか(笑)。でも、今の人が飾りたくなるにはどうしたらいいのか考えていて、ワイルドスワッグのアイディアはずっと温めていたんです」と村上さん。

上川町には野生の鹿が多く、毎年3月中旬頃になるとツノが根元から落ちて新しく生え替わります。そのツノは地元ではただのゴミになり、環境的にも問題でした。「温泉街のお土産物のツノは趣味で集めて置いてあるだけで、当然、売れていなかったんです。活用してもらえるならありがたいと、お店に協力してもらえることになりました」と三谷さん。


村上さんと町との深いコミュニーケーションから実現した、ふるさと納税のワークショップ。

ワークショップ ワークショップ

村上さんと町との深いコミュニーケーションから実現した、ふるさと納税のワークショップ。

上川町のふるさと納税

体験を通して町を知り、楽しむ上川町のふるさと納税。ほとんど廃棄されていた鹿のツノが、暮らしを彩るアートに変身。

ふるさと納税では、日付指定のイベントを売るのは珍しく、成功事例がありません。初めてのことなので、今回は新しい形を試す実験でもありました。「最初から大成功するイベントはなかなかありません。1回で終わるのではなく、改良を重ねて良くしていきたいので、来年以降もテーマを変えて続けていきたいと思っています」と三谷さんは常に前向きです。

ふるさと納税は商品優先で選ぶので、どこの地域に寄付したのか覚えていない人も多いのではないでしょうか? 肉は食べたら終わりですが、ワイルドスワッグは完成したらずっと手元に置いておける。写真を撮りたくなるので、SNSでの広がりにも期待しているそうです。

「ワークショップは、上川町のことを深く知ってもらえるチャンスです。町のファンになって、何か力になりたいと寄付をする。それが本質的なふるさと納税ではないでしょうか」と村上さん。上川町の熱い思いがこもった新しいふるさと納税の形。これからどんなふうに進化していくのか楽しみです。


新たなふるさと納税の形に挑戦する三谷さん。三谷さんに限らず、上川町の人が持つ明るく開かれたチャレンジ精神が、多くの人の心を動かし、形になりつつある。

三⾕航平

新たなふるさと納税の形に挑戦する三谷さん。三谷さんに限らず、上川町の人が持つ明るく開かれたチャレンジ精神が、多くの人の心を動かし、形になりつつある。

INFOMATION PROFILE
  • 村上萌
    村上萌

    1987年生まれ。株式会社ガルテンの代表。季節の楽しみと小さな工夫で理想の生活を叶えることがコンセプトのライフスタイルWEBマガジン『NEXTWEEKEND』(https://nextweekend.jp)の編集長を務める。会社経営をする傍ら育児にも勤しみ、東京と長崎の二拠点生活を送る。夫がサッカー選手で、所属チームの関係で北海道生活の経験もあり。

  • 三谷航平
    三谷航平

    上川町役場産業経済課 移住定住グループ。2012年北海道上川町役場入庁。上川町が展開する新規事業(北海道ガーデンショー・大雪山大学・カミカワークプロジェクトなど)の企画構想・立上げに主担当として携わる。2019年7月より、東京の民間会社に出向し、KAMIKAWORK.Lab.TOKYO.SATELLITE(上川町東京事務所)も兼ねつつ都市・地域をつなぐ架け橋として数多くのプロジェクトを企画・進行中。

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