今年6月、北海道・上川町の大雪山国立公園に向かう国道沿いに、1軒のドライブイン「BIG SNOW DRIVE-in」がオープン。カフェでゆっくりお茶をしたり、外でバーベキューを楽しんだり、お土産を買ったり……近所の住人も観光客も思い思いに楽しむことができる、ちょっとした複合施設です。
そして、ドライブインの看板商品・ビーフジャーキーは、ふるさと納税の返礼品にもなりました。
これらが誕生するまでどのようなストーリーや想いがあったのか、大阪にある総合アウトドアプロデュース会社「Gypsy Fire Stream(ジプシーファイヤーストリーム)」の近藤剛史さんと、上川町役場の瀧叶汰さんにお話をうかがいました。
写真(雑誌イメージ、改修前のガソリンスタンドを除く):絹張蝦夷丸/文:矢澤純子
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出会いは、高校時代のインターンシップ!
税務課から地域魅力創造課へ、
そしてふるさと納税担当に
今年4月、ふるさと納税を担当する上川町役場 地域魅力創造課にやってきた瀧叶汰さん。
生まれは旭川市ですが、上川町役場に就職したのは、上川町の人のやさしさに触れたことが理由とか。
「将来、特にやりたいことがなかった頃、先生に進路を相談したら公務員をすすめられ、高校2年生のときにインターンシップで上川町役場に行ったんです。広報の仕事を体験したのですが、町の人がとにかくフレンドリーで温かい。やさしい言葉をたくさんかけてくれて、そのときからここで働けたらいいなと思いました」と話します。
その後、試験にパスして入庁。税務課に配属されて4年間勤務。2023年、税金の管理から、町の魅力を発信する部署に異動し、仕事内容が大きく変わりました。
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2023年4月の異動にて、地域魅力創造課の新しい仲間に加わった瀧叶汰さん。
2023年4月の異動にて、地域魅力創造課の新しい仲間に加わった瀧叶汰さん。
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瀧さんを囲む、上川町役場ふるさと納税プロジェクトチームの仲間たち。左から、佐々木亜緯さん、小林法矢さん、同じ課で業務のサポートをする太田涼介さん。自由な発想と果敢な行動力が町はもちろん、上川町とつながる日本中の人々の笑顔を生み出している。
「税務課時代、イベントなどのお手伝いを通じて地域魅力創造課の仕事の面白さは感じていて、次に異動するならこの部署がいいと、それとなく上司に伝えていました。念願が叶っての異動でしたが、思ったよりも忙しく、覚えることが多くて、まだまだ楽しいと思える余裕がないですね」と言う瀧さん。
そんな瀧さんが初めて担当する、ふるさと納税のパートナーが近藤剛史さんです。
瀧さんを囲む、上川町役場ふるさと納税プロジェクトチームの仲間たち。左から、佐々木亜緯さん、小林法矢さん、同じ課で業務のサポートをする太田涼介さん。自由な発想と果敢な行動力が町はもちろん、上川町とつながる日本中の人々の笑顔を生み出している。
「税務課時代、イベントなどのお手伝いを通じて地域魅力創造課の仕事の面白さは感じていて、次に異動するならこの部署がいいと、それとなく上司に伝えていました。念願が叶っての異動でしたが、思ったよりも忙しく、覚えることが多くて、まだまだ楽しいと思える余裕がないですね」と言う瀧さん。
そんな瀧さんが初めて担当する、ふるさと納税のパートナーが近藤剛史さんです。
アメリカ文化への憧れが仕事に
上川町の“スーパー公務員”との出会い
キャンプ場やグランピングなどの施設、アウトドアウエディングのプロデュースなどを手がける会社「Gypsy Fire Stream(ジプシーファイヤーストリーム)」を大阪で営んでいる近藤さん。
子どもの頃からサーフィンやスケートボードが大好きで、アメリカンカルチャーに憧れていたと言います。アメリカ文化に触れるため穴があくほど読んでいた大好きな雑誌の出版社から、偶然にも、イベントの仕事を依頼され、それが上川町と出会うきっかけとなりました。
「その出版社に、上川町役場の三谷航平さんという方が出向していて、イベントのディレクションをされていたんです。北海道の役場から東京の出版社に出向しているなんて珍しくて、スーパー公務員が現れたぞと(笑)。3日間ほどご一緒しているうちに意気投合して、お互いに今度うちに来てくださいよという話をしました」と近藤さん。
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アメリカンカルチャーに憧れた近藤さんが愛読した雑誌の数々。その出版社との仕事が、上川町への入り口となるとは、全く想像もしなかったそう。
アメリカンカルチャーに憧れた近藤さんが愛読した雑誌の数々。その出版社との仕事が、上川町への入り口となるとは、全く想像もしなかったそう。
イベントのあと、さっそく三谷さんは近藤さんの会社が手がけた大阪のアウトドア施設を視察に来ました。そのとき、「上川町にもキャンプ場があるからぜひ来てください」と誘われ、近藤さんは生まれてはじめて北海道へ。そしてトントン拍子に話が進み、層雲峡オートキャンプ場のリニューアルのお手伝いをすることになります。
「これまでいろいろな地域で仕事をしてきましたが、上川町役場の段取りの早さとフットワークの軽さには驚きました。町の人はみんな親切で、外からのアイディアも積極的に取り入れるし、オープンで寛大。こんなに本気で町づくりしているところは他にないです」と近藤さんは話します。
現在、三谷さんと連携し、ふるさと納税を担当している瀧さんも、「上川町役場ならではの、ものごとを決定するまでのスピード感はすごく感じます。他の自治体だったら何段階もステップも踏むところを、上川町役場は2ステップくらいで進むイメージかもしれません。結構スパルタです(笑)」と言います。
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はじめて訪れた北海道の町が上川町だった近藤さん。オープンマインドな人と町に感動し、ふるさと納税の返礼品開発、町内での新婚旅行を兼ねた小規模結婚式のツアー造成、ワーケーションを利用したツアー造成・環境整備などにも携わっている。
はじめて訪れた北海道の町が上川町だった近藤さん。オープンマインドな人と町に感動し、ふるさと納税の返礼品開発、町内での新婚旅行を兼ねた小規模結婚式のツアー造成、ワーケーションを利用したツアー造成・環境整備などにも携わっている。
原風景はアメリカの荒野にあるガスステーション
雪に埋もれた廃ガソリンスタンドを
世界一尖ったスポットに
そんな近藤さんと上川町の最新のコラボレーションが、ドライブインです。もともとそこは、廃業になってそのまま放置されていたガソリンスタンドでした。近藤さんが層雲峡オートキャンプ場の仕事をしていたとき、いつも車で通っていた道に廃ガソリンスタンドがポツンとあり、見かけるたびに気になっていたそう。冬だったので、建物が雪の中に埋もれている状態でしたが、その姿に惹かれたのは、アメリカで出会った個性的なガスステーションへの憧れがあったからでした。
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近藤さんが見た、雪にすっぽりと埋もれた上川町の廃ガソリンスタンド。この光景に、昔見た、カリフォルニアの砂漠の中のガスステーションを思い出した。
近藤さんが見た、雪にすっぽりと埋もれた上川町の廃ガソリンスタンド。この光景に、昔見た、カリフォルニアの砂漠の中のガスステーションを思い出した。
「買い付けでアメリカに20年以上通っているのですが、数年前にカリフォルニアの荒野を車で走っていたとき、砂漠の何もないところにポツンと1軒、個性的なガスステーションがあったんです。給油するだけではなくて、中にオリジナルグッズや古着など、お土産とも思えないヴィンテージガラクタがいっぱい並んでいて僕にとっては宝箱のようでした。雪の中にポツンとある光景がアメリカの荒野とつながって、あの世界を再現したいと思ったんです。それで三谷さんに、あそこを使って何かをやったら面白そうとポロッと言ったら、どんどん話が進んでしまって(笑)」と近藤さん。
しかし、いざ調べてみると、地下のタンクの撤去には高額な予算が必要で、廃業したガソリンスタンドは次の借り手や買い手が現れず、廃墟になって長年残ってしまっているという全国的な課題が判明しました。
近藤さんはこの状況を前向きに捉え、既存の建物をそのまま生かしてリノベーションすることを決心。
「これが実現すれば、自分がやりたいことだけではなく、全国的な課題を解決する事例作りにもなるかもしれない。町の景観も良くなり、お世話になった上川町の地域再生に貢献できるのではと思いました。オーナーさんに挨拶に行ったら、廃業して10年以上経っていて、建物を処分しないまま残していることをたいへん気にかけていたようで、僕の計画に賛同してくれました」と話します。
その頃、税務課にいた瀧さんも、「あの建物はボロボロで目立っていましたし、当時、固定資産税も担当していたので、存在は知っていました。役場の中でも、誰かが買うらしい、お店をやるみたいだよ、となんとなく噂になっていて、ホントに?と思いました。ガソリンスタンドは再利用が難しいので、どうするんだろうと。まさかドライブインになるとは全く思っていなかったですね」と当時を振り返ります。
目指すは、日本一尖ったドライブイン
看板商品・ビーフジャーキーを開発し、
ふるさと納税に
調査や手続きに1年ほどかかりましたが、無事に土地を購入し、いよいよリノベーション工事がスタート。
「長年放置されていた分、思っていた以上にボロボロでしたね。そのままでは使えないので、手間はかかるけれど、一旦きれいにしてからエイジング加工で味を出すことにしました」と近藤さん。
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(上)改装前のガソリンスタンド。春になって雪から現れた姿はボロボロで、中には大量の廃棄物が残っていた。
(下)ドライブインに生まれ変わった外観。ガソリンスタンドの面影を残しつつも、随所に味わいのある佇まいに。
ガソリンスタンドがある国道39号線は、町はずれではあるものの、大雪山国立公園への入口で、層雲峡温泉の行き帰りに通る道でもあり、春から秋は多くのバイカーが通る道内屈指のツーリングコースです。
近藤さんは、この場所を「日本一尖ったドライブイン」にしようと決めました。
名前は、大雪山の名から取って「BIG SNOW DRIVE-in」に。
室内はカフェに、ピット(車の整備などをするところ)はお土産ショップにして、外の敷地が広いのでピクニックチェアとバーベキューグリルを置いて、バーベーキューができるようにしました。
改装前のガソリンスタンド。春になって雪から現れた姿はボロボロで、中には大量の廃棄物が残っていた。
ドライブインに生まれ変わった外観。ガソリンスタンドの面影を残しつつも、随所に味わいのある佇まいに。
ガソリンスタンドがある国道39号線は、町はずれではあるものの、大雪山国立公園への入口で、層雲峡温泉の行き帰りに通る道でもあり、春から秋は多くのバイカーが通る道内屈指のツーリングコースです。
近藤さんは、この場所を「日本一尖ったドライブイン」にしようと決めました。
名前は、大雪山の名から取って「BIG SNOW DRIVE-in」に。
室内はカフェに、ピット(車の整備などをするところ)はお土産ショップにして、外の敷地が広いのでピクニックチェアとバーベキューグリルを置いて、バーベーキューができるようにしました。
(左)ドライブインに掲げられた手描きの看板。店名とともに “KAMIKAWA HIGH MOUNTAIN PARADISE” の文字が。
(真ん中)ガソリンスタンドの休憩室は、水色と白を基調にした壁と、アメリカから輸入したこだわりの家具やオブジェを配したカフェに大変身!
(右)ピットは、服やキャンプグッズが買えるショップに。
ドライブインに掲げられた手描きの看板。店名とともに “KAMIKAWA HIGH MOUNTAIN PARADISE” の文字が。
ガソリンスタンドの休憩室は、水色と白を基調にした壁と、アメリカから輸入したこだわりの家具やオブジェを配したカフェに大変身!
ピットは、服やキャンプグッズが買えるショップに。
今年から、上川町のふるさと納税の返礼品に加わった、地元、大雪高原牛のビーフジャーキー。登山やキャンプにもおすすめの一品。
そして、ドライブインの看板商品として考案したのが、大雪高原牛を使ったビーフジャーキー。
近藤さんが校外講師をしている公益社団法人全国食肉専門学校で加工を行い、お土産として販売するほか、ふるさと納税の返礼品にもなります。
「ビーフジャーキーは発送も楽だし、常温で持ち帰れる。健康的で高タンパクなので、大雪山への登山やキャンプにも持って行ってもらえたらと思いました」という近藤さん。
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返礼品のビーフジャーキーを確認する瀧さん。地域魅力創造課の一員として、上川町の魅力を見出し、伝える第一歩を踏み出した。
今年から、上川町のふるさと納税の返礼品に加わった、地元、大雪高原牛のビーフジャーキー。登山やキャンプにもおすすめの一品。
返礼品のビーフジャーキーを確認する瀧さん。地域魅力創造課の一員として、上川町の魅力を見出し、伝える第一歩を踏み出した。
ドライブインのスタッフは、近藤さんの考えや町の魅力に賛同してやってきた2人。
町外の遥か遠くに住んでいましたが、近藤さんの働きかけで上川町に移住してきました。
こうして約1年弱の準備期間を経てオープンした「BIG SNOW DRIVE-in」。
リノベーションはまだ進行中ですが、早くも町の人の憩いの場になっているようです。
「週末は観光客の方も来てくれますが、今は町内のお客さんが中心ですね。上川町には市民プールみたいなものがないので、外に4mのプールを置いたら、近所の子どもたちが入りにきています」と話します。
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(上)ドライブインのオープンとともに店長として上川町に移住した、寺内リョウマさん。オープンマインドな町に生まれた新しいスポットで、町民はもちろん、世界から訪れる人を温かく迎える日々が始まった。
(下)近藤さんの洒落っ気も感じられる、上川町初の世界一?小さな民営プール。子どもたちにも人気のスポットに。
ドライブインのオープンとともに店長として上川町に移住した、寺内リョウマさん。オープンマインドな町に生まれた新しいスポットで、町民はもちろん、世界から訪れる人を温かく迎える日々が始まった。
近藤さんの洒落っ気も感じられる、上川町初の世界一?小さな民営プール。子どもたちにも人気のスポットに。
人とのつながりが楽しいことを生み出す!
町に愛着がわく、新しいふるさと納税の形
近藤さんは上川町内だけではなく、外にもつながりを作って、ドライブインを起点に人を呼び込んで町を盛り上げようとしています。
「ドライブインで毎月2回くらい、フリーマーケットを開催できたらと計画中です。出店者は町の外からも個性的な尖ったお店を呼んで、なんか面白そうなことをやっているぞという印象を与えたい。アメリカの荒野にポツンとあるお店は、どんなに遠くても人が集まってきます。そんなふうに、長時間運転してでも行きたくなるようなところにしたいですね。国道沿いに、うちだけじゃなく、何軒か尖ったお店ができるのが理想です。町全体を変えるのは難しいけれど、スポット的に面白い場所を作ることはできると思っています」と話します。
さらに近藤さんは現在、夏しか出せないとうもろこしを通年食べられるように真空パックにできないか、農家の人と一緒に模索中。実現すれば、ビーフジャーキーのようにドライブインで通年販売しながら、ふるさと納税の返礼品にもできる可能性があります。
上川町のふるさと納税は、ただ特産品を売るだけではなく、体験型のものもあったりと、町の魅力を知ることができる新しい形を積極的に取り入れています。
瀧さんは今後の展望について、「ふるさと納税の代表的な肉の商品を作りたいですね。近藤さんは、これまでに大雪高原牛を使ったステーキやすき焼き、ハンバーグなどの精肉製品、BBQ商品の開発などに携わっているので頼りにしています。個人的にはお酒が好きなので、日本酒が有名な上川町ですが、上川産のウイスキーが作れたらうれしいです」と話します。
これから先も、町に愛着がわくような、さまざまな形態のふるさと納税が生まれそうです。
上川町には面白い人が集まる不思議な魅力があるようで、近藤さんのような外部から来た人の化学反応で町のあちこちで楽しいことが起こり、どんどん変化しています。ぜひ足を運んで体感してみてください。
★「BIG SNOW DRIVE-in」の詳細はこちら
https://www.bigsnowdrive-in.com/
寄付金額 8,000円
内容量 1枚
賞味期限 製造日から3カ月
北海道・上川町が誇るブランド肉、大雪高原牛のビーフジャーキーが新登場! 大雪山麓の豊かな湧き水と栽培期間中農薬を一切使用しない自家牧草、非遺伝子組替の安全安心な餌で育った牛は、柔らかな肉質とさっぱりとした脂身が特徴。
そのソトモモを使用し、バーベキューのプロ集団「Gypsy Fire Stream」と公的食肉学校の「公益社団法人 全国食肉学校 」が唯一無二の逸品に仕上げました。Gypsy Fire Streamが、上川町の廃業したガソリンスタンドから再生した話題のドライブインでも扱う人気の新ソウルフードです。
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瀧叶汰
北海道旭川市生まれ。高校卒業後、上川町役場に入庁。4年間、税務課に勤務し、入湯税やタバコ税、住民税や国民健康保険税などの管理を担当。2023年4月より地域魅力創造課に異動し、現在、上川町のふるさと納税を担当している。
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近藤剛史
「Gypsy Fire Stream(ジプシーファイヤーストリーム)」代表。2010年、アメリカンバーベキューのケータリング業をはじめ、2015年より北欧canvascamp社(テントメーカー)の代理店となり、テントの販売、グランピングのプロデュース運営、アウトドアウエディングのプロデュースなどを行う。2018年に法人化。
大阪市立長居公園植物園の中にあるカフェレストラン「HANDSOME bot GARDEN」の運営をはじめ、日本中の国立公園の活性化や全国でのグランピング・アウトドアイベント運営なども行う。
https://www.gypsyfirestream.com