北海道の中心部、大雪山の麓、上川町に、北海道で12番目の酒蔵が生まれたのは、2016年でした。その名は、上川大雪酒造「緑丘蔵(りょっきゅうぐら)」。日本酒の製造を休止していた三重県の酒造会社から免許を譲り受け、遠隔地に移して酒蔵を新設する極めて異例なケースでした。上川町の高野課長いわく「日本初のウルトラCといえる起業」。
その背景にあったのは、町全体で取り組んでいた“地方創生”でした。上川町の雄大な自然を生かし、大雪山系の天然水と北海道産の酒米で世界に通用する日本酒を造り、地元を盛り上げたい、そんな熱い思いがきっかけでした。
杜氏として迎えたのは、新十津川町にある金滴酒造で杜氏を務めた経験もある川端慎治さん。上川町の水と誰もやったことがない新しい酒蔵創生に惹かれ、建物の設計から携わり、醸造設備の導入、事務所のパソコンのセッティングまで、一手に担いました。
「本当にゼロの状態からの立ち上げで、私以外の蔵人は全員未経験者。とんでもなく大変でしたが、上川町の役場職員の方はアグレッシブで協力的。洗米や草刈りなど、ボランティアで手伝ってくれて助かりました」と川端さん。
地元の人と共に手探りの中ではじめた日本酒造りですが、良質な水と北海道産の酒米で丁寧に造られた純米酒は、今や町の酒として町民の誇りに。
「上川町の人は、上川大雪酒造のお酒を“うちのお酒はおいしい”と胸を張って言います。まだできて4年しか経っていないのに、ここまで地元の信頼を得ているのはすごいこと。役場のみんなもすっかり上川大雪酒造と川端さんのファンです」と高野課長も誇らしげに話します。
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(上)上川町は日本最大の山岳自然公園「大雪山国立公園」の麓にある人口3,400人ほどの小さな町。北海道最高峰の旭岳を含む大雪山系や石狩川の清流など自然環境に恵まれ、広大な農地ならではの農業や畜産も盛ん。「層雲峡温泉」は年間約200万人もの観光客が訪れる。
(下)上川大雪酒造の「緑丘蔵」。酒蔵にはギフトショップも隣接。手造りの伝統的な手法で丁寧に仕込む“小仕込み・高品質”の酒造りを行い、派手さは求めず「普通においしい酒」、誰でも飲みやすい「飲まさる酒(北海道弁でつい飲んでしまうという意味)」を目指している。